学術情報

第157回 日本獣医学会学術集会報告

会名:第157回 日本獣医学会学術集会

場所:北海道大学 高等教育推進機構

日時:2014年9月9日~9月12日

 

印象的な講演内容

1) DIO-6 リポソームを利用した犬用歯周病粘膜ワクチンの開発  
      DIO-7 リポソームを応用した経皮ワクチンの開発

ワクチン開発のトレンドの一つに、「粘膜免疫誘導ワクチン」があります。「内なる外」とも称される粘膜は呼吸器や消化管などの表面に広がっており、体内に入った病原体が最初に取り付く場であるため、そこに免疫を誘導して感染を防ぐという考え方です。本演題に登場するリポソームは球状の人工脂質二重膜であり、細胞膜(あるいはエンドソーム)と融合できる特徴から、リポソームをキャリアーとしたリポソームワクチンの可能性が検討されています。本発表では、犬の歯周病菌に由来する抗原を搭載したリポソームを犬に点眼することで、血中にIgG、唾液中にIgAが誘導されることが報告されていました。さらに、同グループは特定の脂質から構成されるリポソームに抗原を搭載し、経皮投与することで血中にIgG、腸液中にIgAを誘導し得ることを報告しており、いずれもリポソームが粘膜免疫の誘導に有効であることを示すものでした。特に、経皮投与によるリポソームワクチンの有効性が示唆されたことは、安全性や接種の手間の軽減といった面からも、非常に面白い結果であると思われます。

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2) DVO-30妊娠豚を用いたPRRSV全粒子不活性化ワクチンの評価試験

豚繁殖・呼吸障害症候群はアルテリウイルス科に属するウイルス(PRRSV)の感染によって引き起こされる豚の感染症です。1980年代後半に報告された比較的新しい感染症ですが、北米や欧州に拡散して大きな被害を出しており、これまでに生ワクチンが開発されていますが、被害を完全に抑えるには至っていません。本演題では、日本国内で分離されたPRRSVを用いた、全粒子不活化ワクチンの有効性試験が報告されていました。結果は、対照群と比較してワクチン接種群ではPRRSV攻撃後のウイルス血症が軽減するものの、発熱や食欲不振といった臨床症状はむしろ悪化するという興味深いものでした。面白いことに、ワクチン接種後、試験終了時まで防御抗体価の上昇が一切認められないことも報告されていました。PRRSVは主要防御抗原(GP5)の抗原部位を糖鎖で覆い隠した上、おとりの抗原部位(デコイ)によって防御活性の無い抗体の産生に宿主免疫を動員させるという、ユニークにして厄介な性質を持つとされています。本発表もまた、PRRSVの厄介さを際立たせるものであり、PRRSV不活化ワクチンの開発が一筋縄ではいかないことを示唆するものでした。

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感想

本年の獣医学会学術集会は、会期中に周辺地域に大雨特別警報が発令され、参加者の携帯電話から警報が鳴り響く中進行されるという、これまで経験したことのない学会となりました。しかし、深夜に猛烈な雨に見舞われることこそありましたが、日中の天候には恵まれ、一足早く秋の気配を感じながら快適に発表に傾聴することができました。会場となった北海道大学は、自然豊かなキャンパスを有しており、休憩時間中に散策を楽しむこともできて、メリハリのある非常に充実した学会であったと思います。本学会への参加は今回が初めてでしたが、病原体の野外における浸潤状況や、試作ワクチンの臨床試験結果など、実践的且つ興味深い内容が取り扱われており、我々の研究活動にフィードバックできそうなものが多くありました。次回は、ぜひ演者としたいものです。

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【報告者】
新技術開発統括部 小川 遼


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